福井県に水揚げされたズワイガニに対して、親しみを込めて呼ぶ愛称です。

訓読みで「いばら」、音読みで「そ」と読む「楚」という漢字は、古くは「すわえ」と読まれ、「若い枝のまっすぐなもの」を意味し、なまって「ずわい」とも使われていました。つまり枝のように細長い脚を持つカニと推理されます。
その他、酢にあえて食べることから「すあえ」、「ずあえ」、「ずわい」と発音が変化したと考える人もいます。また、ズワイガニのズは頭という字を当て、カニの王を意味すると書かれたものもあります。

ズワイガニを目にするようになったのは、水深200m前後の深い海で漁ができるようになった安土桃山時代、1500年代とみられます。1600年代,全国にさきがけ、若狭湾沖の深い海でもカレイ類を目的に操業されるようになり,その中にズワイガニも混じっていました。

江戸時代中頃に書かれた各藩の産物帳をみると、北陸と山陰地方でズワイガニをさすとみられる記録があります。おそらく、江戸時代の初めから漁村で食用とされ,次第に都市部へと広がっていったのでしょう。

江戸時代始めから中頃と考えられます。江戸時代中頃、全国の諸藩が領内の産物帳を幕府に提出しましたが、その一つに1724年に書かれた「越前国福井領産物」があります。この中で「取得かたき時節も御座候」との注意書きを加え、「ずわいかに」と書かれています。

ズワイガニが新しい種として登録されたのは,大西洋のグリーンランド沖で採集された標本をもとに,1788年のことです。しかし,研究対象となったのは日本が最も早く,1920年代のことです。

1909年からとみられます。1910年元旦の福井新聞には、前年12月に福井県知事が四カ浦村(今の越前町四カ浦)で捕れたカニを東宮御所に献上したことが記載されています

ズワイガニ属には五種類います。そのうち,日本周辺ではズワイガニベニズワイが漁獲の対象となり,オオズワイガニは一時漁獲の対象となったことがあります。しかし,トゲズワイガニは採集された記録があるものの,ミゾズワイガニは生息していません。

ズワイガニの仲間を総称して、Tanner Crabと呼ぶことが多いようです。Tannerとはアメリカの海洋調査船Albatross号の司令官代理であるZ.L. Tanner氏の氏名です。この船は1906年に日本海でベニズワイを採集するなど、ズワイガニ属のカニ類を世界中から採集しました。また,ズワイガニだけを指す場合にはsnow crabが使われます。このsnowはズワイガニの属名がギリシャ語で雪を意味することからきています。

雌雄、大きさ、脱皮後の期間によって商品銘柄が異なります。福井県内で一般的に使われている名称は、ズワイ(身の入りが良い上等の雄ガニ)、水ガニ(脱皮して半年以内で甲らが軟らかく、身の入りが少なく、水っぽい雄ガニ)、セイコ・セイコガニ(お腹に抱いている卵の発生がふ化間近にまで進み、卵巣が成熟している雌ガニ)です。
セイコガ二とは背に子を持つカニ

ズワイガニの生態や漁業に関する最も古い報告は1923年秋田県水産試験場から出されています。1929年以降には福井県水産試験場が標識放流の結果を報告しています。本格的な研究は日本海にける漁獲量が著しく伸び、資源の悪化が叫ばれた1965年頃からです。外国ではアメリカ、カナダでの漁業が始まった1970年に入ってからです。

越前がには水深200m〜400mの海底に生息していますが、ベニズワイは400mよりも深いところに生息する別の種です。大きさに違いはありませんが、ゆでたカニの色は越前ガニが黄色を帯びた淡い赤色であるのに対し、ベニズワイはきれいな紅色になります。

底びき網です。
日本海で行われている底びき網

卵巣のことです。お腹に抱いている受精卵を外子(そとこ)または外子卵(がいしらん)と呼ぶことから、卵巣を内子(うちこ)、内子卵(ないしらん)と呼ぶことがあります。
ズワイガニの生殖線(左:雌、右:雄)

カニの肝すい臓のことです。カニの甲らをとると、内臓の大部分を占める褐色の臓器がみえます。この臓器は肝臓とすい臓の機能を兼ね備えています

カニの胸の下に折りたたまれた腹節のことで,「まえかけ」とも呼ばれます。カニの甲らは頭と胸を合わせた部分で、お腹に相当するのが胸の下に折りたたまれた腹節の部分です。

日本海では夏と冬の2回あります。雌ガニは夏の6月から8月にかけて、生涯最後の脱皮を行います。そのとき、雌ガニの卵巣は成熟していて、脱皮直後に交尾をして、初めての産卵を行います。2回目以降の産卵は冬の1月から2月に行われます。

いますが、店先で目にすることはないでしょ。親になった雌ガニはすぐに産卵して卵を抱きます。その卵は1年半後にふ化しますが、1週間以内に再び産卵し、卵を抱きます。つまり卵を抱いていない期間は1週間以内と短いのです。また,ふ化する時期は雌ガニの漁期を過ぎた1〜2月ですから、漁獲されることもありません。

産み出された直後の卵は橙色の卵黄を大量に貯えているため、橙色をしています。しかし、卵の中で発生が進むにつれて、卵黄が栄養として使われ、卵黄が少なくなります。一方、体がつくられてくると、黒を主とする色素ができてくるため、次第に黒っぽくなっていきます。ですから,漁期初めの雌ガニは橙色の卵を抱いていますが,魚期の終わりごろには黒っぽい卵を抱いているようになります。

雌ガニは一生の間に5〜7回の産卵を行うと考えられています。各産卵に先立ち、交尾をしますから,一生の交尾回数は複数回です。ただし、雄雌ガニとめぐり会わなければ、受貯精袋に貯えてある精子で受精させることもできます。また,各産卵に先立ち、複数の雄ガニと交尾することも観察されています。
交尾中のカニ

プランクトン生活を終えた幼生は稚ガニとなって、広い海域で海底生活に入ります。その後、思春期を迎える頃までに、生殖海域と呼ばれる水深220m前後の海域に集まってきます。6月から8月にかけて、この海域で若い雄ガニが成熟した卵巣をもつ若い雌ガニを両方の手で抱きかかえ、雌ガニの生涯最後の脱皮を待ちます。

日本海における成体雌ガニの生息水深は250m前後であり,この特定の海域でふ化が行われます。

産卵期は夏と冬の年2回有り、それぞれの産卵に先立って交尾が行われます。精巣では季節に関係なく、精子がつくられ、輸精管には精子が貯えられていますので、雄ガニは年中交尾が可能です。

親の大きさによって決まり、その範囲は15万粒から7万粒で、平均すると10万粒です。

仰向けになった雌ガニを雄ガニが抱きかかえながら、胸を合わせることによって交尾します。

日本海西部海域における底びき網の漁期は9月から翌年6月までですが,ズワイガニの漁期はその一部の11月6日から翌年3月20日までです。したがって,ズワイガニの漁期以外に底びき網に入ったカニは海に戻されます。また、ズワイガニの漁期中であっても,捕獲が禁止されているカニ(未成体)は戻されます。

蚊の幼虫であるボウフラによく似ています。卵からふ化した幼生はプレゾエアと呼ばれ、体長が3oしかありません。しかし、1時間以内にえさをとることもなく、脱皮をして成長します。
ズワイガニの成長に伴う生息水深の変化

水深250mの海底でふ化した幼生は海面に泳ぎあがり、3ヶ月間にわたりプランクトン生活を行います。

ズワイガニの仲間はいずれも冷たい海に生息しているため成長が遅く、10年以上も生きています。漁獲しても良い大きさになるまで,雄雌とも10年かかります。その後、7年以上生きることが確認されていますので、寿命は20年前後とみられます。

雄ガニと雌ガニでは脱皮の回数が違うためです。雄ガニは海底生活に入って12回の脱皮で甲幅が130oを超える大ガニになります。しかし、雌ガニは海底生活に入って10回目の脱皮が最終脱皮であり、それ以降は脱皮しません。そのため雄と雌では大きさが極端に違うのです。

雌ガニはプランクトン生活も含めると14回雄ガニが16回の脱皮を行います。雌雄とも、ふ化してから14回目の脱皮をすると、漁獲しても良い大きさになります。

雄ガニにも生涯最後の脱皮があり、この脱皮を終えたカニのハサミは太くなります。したがって,これからも脱皮を続けるカニに比べ,最期の脱皮を終えたカニでははさみが太いのです。しかも,生涯最後の脱皮を行う時のカニの大きさには個体差があり,あるカニはまだ体が小さいのに再後の脱皮を行うため,同じ大きさでもはさみの太いカニと細いカニがいるのです。

脱皮して間がない、軟らかいカニをいいます。脱皮をするときカニは軟らかいうえ、筋肉も少なく、水っぽい状態にあります。時間が経つにつれて次第に硬くなり、筋肉も充実してきますが,脱皮後の半年くらいは水ガニと呼ばれます。

カニビルの卵です。このカニビルは魚をえさとし、卵を産み付ける場所として、単にカニの甲らを利用しているだけで、カニに対しては何も悪さをしません。付着していても食品としての問題はありません。
濃い茶褐色のブツブツがカニビルの卵です。

ズワイガニは冷水性の生物であり、北の海では浅いところにも生息していますが、南の海は暖かいため,深いところにある冷たい水にしか生息できません。したがって,日本海のような南の海では水深200mよりも深いところでしか、生きていけません。福井県で採集された最も深い記録は650mです。

ズワイガニの仲間、5種全てが冷水性のカニです。従って水温5℃を越える暖かな海には生息していません。分布海域は北半球のみで,日本海、オホーツク海、千葉県犬吠埼以北の太平洋、ベーリング海、北アメリカ大陸のカリフォルニア南端から北の海域、大西洋では北アメリカ大陸のカナダから北の海域とグリーンランド沖の海域です。

卵からふ化した直後に、幼生は海面近くまで泳ぎあがり、3ヶ月間のプランクトン生活をします。その後は成長するにつれて次第に生息水深を深くし、海底に達して、稚ガニに脱皮します。稚ガニへの脱皮は沿岸から沖合きにかけての広い海域で、水深範囲も広いと考えられます。海底生活に入ってからは脱皮を繰り返しながら、生殖海域と呼ばれる水深220mと230mの海域に集まってきます。最初の交尾と産卵を行った後に、雌ガニは水深250m、雄ガニは300m〜400mの海域へ移動します。

古事記には応神天皇が近江の国に入り、そこで出されたカニに呼びかける「この蟹や、いづくの蟹、百づたふ、角鹿の蟹、横去らう、いづくにいたる・・・」との即興の歌が書かれています。そのカニをズワイガニであると考えている人もいますが、当時の操業能力からみて、水深200mを超える海域に生息しているカニを漁獲できたかは、疑問で

動物なら何でも食べます。素早い行動をとれませんので、貝類やゴカイの仲間、ヒトデ類、死亡した魚やイカなどです。また共食いもしますから、脱皮中のカニが襲われることもあり、脱皮殻を食べているのも観察されています。

日本が日本の周辺で漁獲した量は、1960年代に2万t台でしたが、資源の回復力を上回る漁獲を続けたために、その後は急激に減少し、現在は5千t前後です。特に西部日本海での漁獲量の減少が目立ちますが、最近では資源保護の効果が現れ、若干の回復傾向が認められます。

最近は500t前後です。1960年前後には2,000tを水揚げしていましたが、捕り過ぎ獲の影響を受け、1980年には300t弱にまで落ち込みました。

雌ガニが生息している水深250mの海域の一部をコンクリートブロックで囲い、底びき網が操業できないようにしています。また、カニの漁期にしか操業しないカニ専用漁場を設けています。さらに,漁期の短縮や漁獲制限を設けています。

多くの病気にかかります。その一例として,甲らの一部にコールタールを塗ったように真っ黒になったカニがごくまれに捕れることがあります。漁業者はススガニと呼んでいますが、ある種のカビに犯されているのです。

「越前がに」が生息する海域で操業できるようになったのは江戸時代の初めです。当時、手漕ぎの船の航海には時間がかかり、保冷技術がない夏には鮮度維持に苦労したと考えられます。特にカニは傷みが早いため、冬にしか港に持ち帰ることができなかったと推測されます。さらに,夏は雌ガニの,秋は雄ガニの脱皮時期であり,夏から秋にかけては雌雄共に脱皮直後の商品価値の低いガニが多いのです。

ズワイガニの仲間を漁獲している国はアメリカ、カナダ、ロシア、韓国、北朝鮮です。中でもカナダとアメリカが多く、日本へ輸出しています。

プランクトン生活をしている時には小さな魚に,海底生活に入ったカニは,海底近くに生息している多くの魚に食べられています。親になったズワイガニの一番の敵は人間なのです。

ズワイガニの時期は法律で海域毎に定められています。富山県から西の日本海では雄ガニが11月6日〜3月20日まで、雌ガニが11月6日〜1月20日までです。
海域毎に異なるカニの漁期

漁獲しても良い雄ガニの大きさは法律で定められています。法律の対象となっている海域は日本海、オホーツク海、千葉県犬吠埼以北の本州沖太平洋で、本州沖太平洋では甲幅80mm以上、その他の海域では90mm以上が漁獲しても良い大きさです。雌ガニの甲幅制限はなく,成体なら漁獲可能です(北海道周辺での雌ガニ漁獲は禁止されています)。
海域毎に異なる漁獲の大きさと雌雄

カニは冷凍されると味が落ちるため、「越前がに」に限らず,日本近海で漁獲されたズワイガニが冷凍されて売られることはありません。冷凍されたカニは輸入物と考えて良いでしょう。

どのようにして食べるかによって、買うカニの状態が決まります。カニ刺しは生きているカニであることが条件です。しかし、カニは傷みが早いので、家庭での調理はすすめられません。カニ鍋はカニから出る味が大切ですから、生のカニを使います。カニの味はゆで方で大きく違いますから,ゆでて食べるつもりなら、既にゆでてあるカニを購入しましょう。

@凍っているカニが良い。A解けて体液が流れ出たり、黒味を帯びているカニは避ける。Bカニみそにあまり大きな期待を持たず、甲ら付きにこだわらなければ、甲らを外し、肩肉と脚だけにして冷凍されたカニの方が無難でしょう。C解凍には約5℃以下の冷蔵庫で半日位かける。姿のまま冷凍されているカニなら、甲らを下にして汁の流出を避ける。D解凍したらすぐに食べる。

水ガニ以外の「越前がに」には産地を明記した標識票が取りつけてありますから,それを目印にするのが良いでしょう。さらに,@時間が経つと、乾燥したり、脚の付け根が黒っぽくなることから,赤みの鮮やかなつやのあるカニが良い。A手に持ってみて、小さくても重みのあるカニを買う。Bカニは高いものと覚悟を決める。

カニの刺身のことで、生きているときに脚の身を取り出し、氷水に入れると、一本一本の筋肉繊維がバラバラになって反り返り、白い細長い花ビラをもつ菊の花が開いたように美しくなります。口に中に入れると、解けるような美味しさです。
カニ刺しだけは漁村の料理

ゆでたカニの甲らを取り外し,そこに少し熱めの日本酒を注ぎ、混ぜたのが甲ら酒です。卵巣や外子卵をも入れると一層風味が増します。

日本の他の地域で漁獲されたカニや輸入されたカニと識別するためです。日本海の西部海域で漁獲されたズワイガニには,どこでも産地を明記した標識票が付けられるようになりました。

ゆでたり、焼いたり、また刺身や鍋、炊込みご飯、グラタン等様々です。ただ、越前がには、大変貴重なものであり,あまり手を加えないほうがよいでしょう。家で食べるなら,ゆでたり、焼いたり、鍋ものにすることをお勧めします。

折りたたまれた腹部の形を見るとわかります。雄ガニの腹部は三角形か台形で、幅が狭くなっています。成体になった雌ガニは卵を抱くため半円形に大きくなり,内側に卵を付着させるために発達した腹肢があります。

10本です。1対のはさみ脚と4対の歩脚があります。同じようにカニと呼ばれているタラバガニはヤドカリの仲間で、8本の脚しか見えませんが,残りの2本は小さくて,甲らの内側に隠れています。

2対の触角があり、4本です。第1触角は、エサの匂いや水圧の変化を感じとります。第2触角は退化傾向にあり、ほとんど使われていません。
監修:今 攸(こん とおし)  (元越前かにミュージアム館長・水産学博士)
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