語り継いでいきたい。
5つの紋に込められた 家族の絆と娘への愛を。
喪服の意味を知ってはじめて見えた
着物の奥深さと母の背中の尊さ。
〜喪服(黒紋付)〜
成人式や婚礼で誂える着物には思い入れがあるもの。大事にしていきたい心です 紋は家族とのつながりを表すお守り。家紋入りの帯を合わせるとさらに格調高くなります 子どもを育てながら呉服の仕事に打ち込めるのは両親と夫の協力のおかげです
 着物の第一礼装には5つの紋が染め抜かれています。皆さんはこの意味をご存知ですか? 5つの紋はそれぞれ先祖・両親・兄弟・親族をあらわし、家族の加護で邪気をはらう役目をしています。女性の19歳の厄年やお嫁入りなど、節目の時に誂えるのもお守りの意味が込められているからです。
 というのは母の受け売りで、私は125年続く呉服店の娘でありながら着物にはまったく興味がありませんでした。20代の頃は厳しい両親への反発もあり、店にも着物にも目をくれず、アパレル業界で流行の洋服に囲まれて働くことにやりがいを感じていました。そんな私がなぜ今、母と呉服店を営んでいるのか不思議ですよね。
 自分自身の結婚、2人の子どもの出産、着付けを習い仕事にしたこと……。この10年の間に起きた出来事は、私を着物へと近づけ、母との関係も穏やかなものにしていきました。特に着付けを通じて喪服を着る方の気持ちに触れたことは、私の大きな糧になりました。「お嫁入りで持たせてくれたから」「礼装でお見送りしたい」、何気ない会話から伝わる家族への想い、故人への感謝の気持ちに、私は喪服に込められた意味の重さを知ったのです。それは同時に、喪服を誂えてくれた母への深い感謝と尊敬があふれた瞬間でもありました。この店で母と一緒にたくさんの方に着物を届けていこう。そう決断できたのは、私にとっては自然なことでした。
 最近ではお嫁入りの際に着物を誂える方はとても少なくなりました。でも、私はそんな時代だからこそ、喪服に秘められた想いを伝えたい。母娘をつなぐ絆を大切にしていきたいのです。大先輩である母に学びながら、『中村屋呉服店』はこれからも母娘二人三脚で喪服の文化を守り続けていきます。
(語り手/店主娘 矢澤友美)
中村屋呉服店
福井市花堂北2-7-15
пF0776-36-3350
営業時間:AM10:00〜PM7:00
休日:第1、第3日曜