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2013年4月
 「清明節に新サービス」
 今月4日は中国の清明節で、中国本土では2日から4日までが休日となっている。中国人は古くから、旧暦の清明節に、先祖の墓参りをしたり、故人をしのんだりする風習がある。しかし、近年、核家族化や出稼ぎなどで故郷を離れ、清明節に墓参りができない人も増えている。そうした中、遠方にいながらも、先祖を供養できるように、「代客掃墓」(お墓参り代行)サービスが出現し、にわかに注目を集めている。
 同サービスは▽お墓の清掃▽お線香あげ▽献花▽悼詞(弔辞)の読み上げなどを含む。また、顧客の要望に合わせて、「◆(石ヘンに盍)頭」(ぬかずく)、「痛哭」(泣き叫ぶ)など中国ならではのサービスも提供が可能だという。墓参りの全過程は写真または動画で撮影・記録される。墓参り終了後に、依頼主にメールに添付して送られる。
 基本コースは、お供え物50元、お花100元が相場。オプションサービスとしての「痛哭」は10分ごとに300元が掛かるなど、料金に関しては明朗会計のようだ。コース内容によって料金が異なるが、トータルで300元から3000元まで幅が広い。
 こうした新サービスに対し、「人口政策で一人っ子が増えた今、代客掃墓サービスも選択の一つ」「300元を払うよりも、今生きている親族を大切した方が良い」「自分の先祖はやはり自分で祭る」とさまざまな意見がある。墓参りは中国人にとって先祖とのつながりを再確認し、自分の存在を自覚する場でもある。古来、中国人が大切にしている伝統や家族観が現代社会の市場細分化とうまく合致し、こうしたサービスが生まれたと考えられる。しかし、先祖や故人からすれば、知らない人にぬかずかれたり、泣かれたりしたら、どんな気持ちになるのだろう。
(国際室・吉川文絢 : 2012年4月5日 時事通信 「時事速報」(アジア)より)
 
 ◇清明節(qing ming jie)チン ミン ジェイ
 ◇代客掃墓(dai ke sao mu)ダイ クー サオ ムー
 ◇悼詞(dao ci)ダオ ツー
 ◇◆頭(ke tou)クー トウ
 ◇痛哭(tong ku)トン クー
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2013年3月
 「中国人に人気の日本の農産物」
 読者の皆さんは、中国には野菜や果物の残留農薬を洗い落とすための洗剤があることをご存じであろうが、実は、その洗剤を使って食べ物を洗うのに抵抗がある中国人も中にはいる。農薬を洗い落とす洗剤の多くは、天然由来のものではなく、化学製品だからだ。これを気にする中国人の家庭では、野菜を洗う際に米のとぎ汁をよく使う。科学的な根拠があるか否かは不明だが、昔から伝わるおばあちゃんの知恵の一つである。
 しかし、食べ物に安心・安全を求めるのは中国人も同じ。安心・安全のイメージを持つ日本の食品や農作物には、中国人からは大きな関心を寄せられている。例えば、リンゴのブランドである青森県産の「富士(ふじ)」と福島県産「王林」は中国では大人気。安心・安全に加え、見栄えと味も良く、贈答用には持ってこいのものだからだ。このほか、豊水梨やコシヒカリ、松坂牛もかなりの人気商品だ。値段が高くても、富裕層の間では味や品質に相応したものとして受け入れられている。日本の農産物の巨大なマーケットがすぐ近くの中国にあるとも言えよう。
 日本の環太平洋連携協定(TPP)の参加問題をめぐって、日本国内では議論が沸騰した。とりわけ、農業や医療などの分野からの反対意見が根強かった。しかし、筆者からすれば、為替リスクなどの要因はさておき、日本の農産物は国際市場においてかなり競争力があり、日本の農業を守りながらも、市場を確保できると思う。確かに安いものは魅力的だが、高品質やおいしいものには金を惜しまない人間の欲望も一方にある。まして、著しい経済成長を遂げる中国には大きな購買力がある。品質と価格の高低差で、消費者のすみ分けができると考えられる。
 世界的な不況と東日本大震災の影響で、人間は経済行動でも保守的になりがちだが、一方で、困難な局面を打開し、日本を元気にするには、日本はもっと攻めの姿勢でTPP交渉問題に臨むべきではないかと思う。
(国際室・吉川文絢 : 2012年3月1日 時事通信 「時事速報」(アジア)より)
 
  ◇富士(fu shi)フー シー
◇王林(wang lin)ワン リン
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2013年2月
 「春節の売れ筋商品」
 中国の春節(旧正月)の時期になると、百貨店から超市(スーパーマーケット)まで、真っ赤な下着や靴下が売られているのをよく見かける。年越しする際に、真っ赤な下着を身に着けることで、邪気を払い、一年間を幸せに過ごせるといういわれがあるからだ。色の趣味はさておき、このような普段はあまり一斉に購入しないようなものが売れ筋商品になったりする。
 一昔前は、色が真っ赤である以外に、デザインや機能性などは一般の下着と変わらなかった。しかし、春節商戦をビジネスチャンスととらえ、多くの下着メーカーはデザインを増やし、機能性の改良に努めた。その結果、現在は男性用下着には「龍」、女性用下着には「鳳凰」の刺しゅうデザインが定番となっている。また、春節は冬から春になる季節の変わり目で、気候はまだまだ寒いため、高い保温性を実現した「保暖衣」も発売されている。中国語には「辞旧迎新」という四字熟語があり、意味としては「旧年に別れを告げ、新年を迎える」。この言葉から「新しい洋服を着て新年を迎える」という風習が派生し、春節を前に下着を買い替える人が多い。
 赤いのは下着だけではない。靴下も真っ赤なものが売れている。その中で、特に靴下の足底に「◆(足ヘンに采)小人」の3文字と人模様の刺しゅうが施されているものが大人気だ。「◆小人」は「卑劣者を踏みつぶす」という意味。人模様の刺しゅうを卑劣者に見立て、身辺の裏切り者や悪人を毎日、自分の足で踏みつぶすという厄払いの縁起物になっている。男女を問わず、中国人のほとんどは春節に、赤い靴下を履いている。ただし、さすがにまだ「小人」に煩わされることがないためか、子ども用の◆小人の靴下は製造されていないようだ。
 縁起の良いものを身に着けることで、中国人の新年に対する前向きな気持ちと期待がうかがえる。一方で、競争の激しさが年々増す中国社会において、仕事のストレスや人間関係への不安も如実に映し出されており、◆小人の靴下のようなものに、憩いのひとときとストレス発散を見いだしているとみることもできよう。
(中国在住フリージャーナリスト 吉川文絢 : 2012年2月6日 時事通信 「時事速報」(アジア))
 
 ◇超市(chao shi)チャオ シー
 ◇鳳凰(feng huang)フェン ホアン
 ◇保暖衣(bao nuan yi)バオ ヌアン イー
 ◇辞旧迎新(ci jiu ying xin)ツー ジュ イン シン
 ◇◆小人(cai xiao ren)ツァイ シャオ レン
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2013年2月
 「孔子学院」
 中国語を勉強している方にとって、「孔子学院」という言葉はなじみがあるのでは? これは、中国政府が中国文化や中国語教育を海外で広めるために設立した中国語学校のことである。教育部(日本の文部科学省に相当)が所管する国家漢語国際推広領導小組弁公室による管轄で、2004年に設立され、本部は北京市にある。現在は、海外の教育機関との提携による共同運営の形を取っており、11年8月末の時点で世界104の国と地域に353校が設置されている。これまで中国語教師とボランティアを合わせて2万人近くを海外に派遣した。世界的に有名な思想家である孔子の名を借りることで、語学教育ブランドを目指しているという。
 日本においては、立命館大学(京都市)が05年、北京大学と提携し、日本初の孔子学院を設立した。立命館大学に続き、桜美林、北陸、早稲田などの大学でも同学院が開設された。特に、早稲田大学孔子学院は世界初の「研究型」孔子学院として設立された。中国を研究対象とする大学院生や若手研究者の研究活動を支援しているほか、研究者育成事業、共同研究事業、研究成果の出版事業を柱に、高い語学力と専門性を極める人材育成を目標に掲げているという。
 急速な経済成長を背景に影響力を強める中国は、孔子学院を通じて世界で中国語学習者を増やし、中国文化を浸透させることを狙っている。こうしたソフトパワーを前面に国際社会で中国の存在感を高めたい意向のようだ。また、外国人ビジネスマンや研究者らにとって、一般の中国語学習は物足りなく感じることが多く、高度の中国語教育や学習者のニーズに特化した応用学習も求められるようになった。これらの条件がそろい、同学院のような教育機関が出現し、運営されるようになったのではないかと思う。
 一方、孔子学院の運営費用の一部は中国政府が拠出するのに加え、教材も中国側から提供されるため、「共産党の思想に洗脳されるのでは」と強い懸念を示す欧米の国がある。また、同学院が海外の提携大学内に設置されることは、設置大学の教育機関としての健全性を脅かすものだという指摘もある。しかし、日本からは批判の声はあまり聞こえておらず、どちらかと言えば歓迎する姿勢が見受けられる。漢字文化や思想など古代中国から多くの影響を受けた日本だからこそなのかもしれない。
(国際室・吉川文絢 : 2012年2月16日 時事通信 「時事速報」(アジア))
 
 ◇孔子学院(kong zi xue yuan)コン ズ シュエ ユアン
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2012年12月
 「中国婚博会」
 皆さんは最近、中国の公共交通機関やインターネットなどで「中国婚博会」の宣伝を目にしたことがあるだろうか?「婚博会」とは、結婚関連の商品やサービスなどを集めて展示する博覧会という意味。北京、上海、広州といった中国の主要都市を中心に、大々的に催されている。この催しは、中国の国家商務部、国家民政部、国家工商総局によって認可され、年に4回、3、6、9、12月に開催される。この中で、北京婚博会の歴史が最も長く、すでに23回開催。上海と広州での開催回数はそれぞれ17回と5回だ。
 今年12月に開かれる婚博会は(1)ウエディング写真(2)ウエディングジュエリー(3)ウエディングドレス(4)ウエディングプランニングサービス(5)婚礼披露宴会場(6)婚礼披露宴用品(7)新婚生活用品サービス(8)新居用品サービス−の八つのセクションから構成される。
 中国のホテルは結婚披露宴に必要な装飾や小物などを一括用意してくれるところが多いが、最近のカップルは披露宴の独自性と手作り感を重視するので、演出のプランニングからテーブルブーケや引き出物などまですべて自分たちで選ぶ人が多い。そのため、こうした婚博会に足を運び、実際の商品とサービスを見比べて決めるのだ。
 婚博会は、結婚式披露宴にまつわるものの出展が多いように見えるが、披露宴後のライフスタイルを提案するサービスも少なくない。「新婚生活用品サービス」のセクションでは、花嫁と花婿を対象に美容やダイエットサービスなどをトータルに提供するほか、新婚旅行の手配も行う。また、新居の内装工事から家具やカーテンまで請け負う業者が「新居用品サービス」のセクションに出展するので、婚博会に行けば、結婚に関するすべてのものを手に入れることができる。
 今冬の中国婚博会は以下の日程と場所で開かれる。▽北京12月8〜9日、国家会議中心▽上海12月15〜16日、上海万博展示場▽広州12月22〜23日、琶洲保利世貿博覧館。無料入場券は中国婚博会のホームページ(www.jiehun.com.cn)より直接申し込みできる。ご興味のある方は、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか?
(中国在住フリージャーナリスト・吉川文絢 : 2012年12月6日 時事通信 「時事速報」(アジア))

 ◇中国婚博会(zhong guo hun bo hui)チョン グオ フン ボー フイ
 ◇国家商務部(guo jia shang wu bu)グオ ジャー シャン ウー ブー
 ◇国家民政部(guo jia min zhengbu)グオ ジャー ミン ジェン ブー
 ◇国家工商総局(guo jia gong shang zong ju)グオ ジャー ゴン シャン ゾン ジュー(了)
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2012年11月
 「風水」
 皆さんもご存じのように、中国人は大変風水を重視する。住居を構える際に土地や間取りの風水を見 るだけではなく、お墓を建てる時や家具の置き場所などでも風水師を呼んで風水を鑑定するのだ。風 水が良くなければ、仕事も家庭もうまく行かない上、事業で失敗したり、病気になったりするなど災いを 招きかねないと考える。一方で、近年、中国国内の不動産バブルにより、各地で大規模な土地開発やマ ンション群の建設が急速に進められる中、好景気の追い風に乗ってスピード重視で土地と建物の風水 を重視しない房地産開発商(不動産デベロッパー)が増えている。
 加えて、ここ数年、外国人デザイナーによるおしゃれなデザイナーズマンションが若い世代に人気。機 能性とデザイン性に重点を置くこうしたマンションは、必ずしも中国の風水の考え方に沿って造られるわ けではない。中には、部屋と部屋のドアが向かい合った「門対門」の造りがよく見受けられる。風水の考 え方では、 ドアは「 気(」エネルギー) を集める場所。3メートル以内に二つのドアが向かい合っていると、 それぞれの部屋の住人の運気が相克し、言い争いや消化系器官の病気を引き起こすと言われている。
 ところが、中国人の間では、一昔前なら敬遠された風水的に良くない間取りや土地でも、今はどんど ん売れている。背景には、住宅価格の高騰が挙げられる。自宅とは別に、値上がりする見込みのある物 件を購入し、賃貸物件もしくは転売物件として資産運用する富裕層が多い。価格の高騰を見据えて風水 よりも目前の利益を優先するのである。さらに、風水を気にしない外国人居住者や土地勘がない外地人 (地元以外の出身者)は、知らずに処刑場や墓地の跡地に建てられたマンションを購入し、住んでいるこ とも多々ある。
 風水を気にする方は、ご自身の居住エリアの歴史を調べたり、地元の年配者から情報収集したりする ことをお勧めする。また、中国本土のデベロッパーより、香港や台湾系のデベロッパーの方が風水を重視 し、風水に問題ある土地には手を出さないことがほとんど。中国で部屋探しの際は、こうしたポイントを 押さえて探すと、風水的に良い物件が見つかるかもしれない。
(中国在住フリージャーナリスト・吉川文絢 : 2012年11月22日 時事通信 「時事速報」(アジア))

 ◇風水(feng shui)フン シュイ
 ◇房地産開発商(fang di chan kai fa shang)ファン ディー チャン カイ ファー シャン
 ◇門対門(men dui men)メン デュイ メン
 ◇外地人(wai di ren)ワイ ディー レン  Copyright(C) JIJI PRESS LTD., All Rights Reserved.
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2012年11月
 「風水」
 皆さんもご存じのように、中国人は大変風水を重視する。住居を構える際に土地や間取りの風水を見 るだけではなく、お墓を建てる時や家具の置き場所などでも風水師を呼んで風水を鑑定するのだ。風 水が良くなければ、仕事も家庭もうまく行かない上、事業で失敗したり、病気になったりするなど災いを 招きかねないと考える。一方で、近年、中国国内の不動産バブルにより、各地で大規模な土地開発やマ ンション群の建設が急速に進められる中、好景気の追い風に乗ってスピード重視で土地と建物の風水 を重視しない房地産開発商(不動産デベロッパー)が増えている。
 加えて、ここ数年、外国人デザイナーによるおしゃれなデザイナーズマンションが若い世代に人気。機 能性とデザイン性に重点を置くこうしたマンションは、必ずしも中国の風水の考え方に沿って造られるわ けではない。中には、部屋と部屋のドアが向かい合った「門対門」の造りがよく見受けられる。風水の考 え方では、 ドアは「 気(」エネルギー) を集める場所。3メートル以内に二つのドアが向かい合っていると、 それぞれの部屋の住人の運気が相克し、言い争いや消化系器官の病気を引き起こすと言われている。
 ところが、中国人の間では、一昔前なら敬遠された風水的に良くない間取りや土地でも、今はどんど ん売れている。背景には、住宅価格の高騰が挙げられる。自宅とは別に、値上がりする見込みのある物 件を購入し、賃貸物件もしくは転売物件として資産運用する富裕層が多い。価格の高騰を見据えて風水 よりも目前の利益を優先するのである。さらに、風水を気にしない外国人居住者や土地勘がない外地人 (地元以外の出身者)は、知らずに処刑場や墓地の跡地に建てられたマンションを購入し、住んでいるこ とも多々ある。
 風水を気にする方は、ご自身の居住エリアの歴史を調べたり、地元の年配者から情報収集したりする ことをお勧めする。また、中国本土のデベロッパーより、香港や台湾系のデベロッパーの方が風水を重視 し、風水に問題ある土地には手を出さないことがほとんど。中国で部屋探しの際は、こうしたポイントを 押さえて探すと、風水的に良い物件が見つかるかもしれない。
(中国在住フリージャーナリスト・吉川文絢 : 2012年11月22日 時事通信 「時事速報」(アジア))

 ◇風水(feng shui)フン シュイ
 ◇房地産開発商(fang di chan kai fa shang)ファン ディー チャン カイ ファー シャン
 ◇門対門(men dui men)メン デュイ メン
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2012年9月
 「月餅税」
 中国の秋といえば、中秋節を思い浮かぶ方も多いだろう。今回は中秋節にまつわる話を提供しようと思う。中国では、中秋節は「春節」(旧正月)、「元宵節」、「端午節」と並ぶ伝統4大祭り。旧暦の8月15日の夜に、家族が団らんし、月餅や季節の果物などを食べながら、丸いお月様を鑑賞する習慣がある。月餅を食する慣習は唐の時代から始まり、現在に至っており、庶民の生活に根付いている。この時期になると、多くの企業は福利厚生として、月餅や月餅の商品券などを従業員に配る習慣がある。大手企業または公務員機関となれば、自社の食堂で月餅を作り、従業員に配布しているところも少なくない。
 しかし、この国民的な食べ物に対し、昨年9月に「個人所得税法」が施行されたことにより、「月餅税」という国の課税措置が話題となっている。実際のところでは、「月餅税」という課税項目はなく、あくまでも民間の俗称にすぎない。月餅への課税は、個人所得税の課税範囲にあるとされており、個人所得税として徴収される。現行の「個人所得税法」によれば、雇用されている個人が得た給与、報酬、賞与、手当、その他の所得はすべて個人所得と定義されている。形式として、現金や現物、有価証券などが挙げられる。これに従い、従業員が勤め先からもらった月餅あるいは月餅の商品券も個人所得としてみなされ、個人所得税が徴収されるのだ。企業側も従業員に月餅を配ると同時に、月餅の市場価格を算出し、所得として計上する義務がある。納税しないと、罰則が伴うという。
 このような税制解釈に対し、国民からは「月餅は購入した時点で税金を払っているのに、なぜ勤務先からもらう時にまた二重課税されるのか?」「月餅を配ることは企業の経費として計上すべきではないか?」「個人所得税が天引きされるなら、会社から月餅をもらいたくない」と疑問や反発の声が多く上がっている。また、企業側にとっても福利として従業員に還元したいのに、月餅を配ることで逆に従業員に負担を掛けることになりかねない。月餅を配るか否かが悩ましい問題となっている。
 中秋節はもともと豊作と家族の団らんを祝う中国の伝統イベント。喜びと楽しみの気持ちが満ち溢れる祭りだけに、税金の話が持ち出されるのはやはり殺風景でお祭りムードにそぐわないと思う。しかし、生まれた瞬間から納税から逃れない運命である以上、この「月餅税」がわれわれに普段から税金や税制などについて考えさせてくれるきっかけになったと前向きに考えるしかない。
(中国在住フリージャーナリスト・吉川文絢 : 2012年9月6日 時事通信 「時事速報」(アジア))

  ◇月餅税(yue bing shui)ユエ ビン シュイ
 ◇春節(chun jie)チョン ジェイ
 ◇元宵節(yuan xiao jie)ユエン シャオ ジェイ
 ◇端午節(duan wu jie)ドワン ウー ジェイ
 ◇個人所得税法(ge ren suo de shui fa)グー レン ソー ドゥ シュイ ファー(了)
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2012年8月
 中国語の「兆」はいくらか?
 中国と日本は漢字を使う文化なので、お互いの言語が分からなくても、字面で意味が分かる場合がある。もちろん、同じ漢字でも、中国語と日本語における意味がまったく違う場合も多々ある。有名な話として、日本語の「手紙」は中国語で「トイレットペーパー」を意味し、「大丈夫」は「亭主関白」、「愛人」は「配偶者」となってしまう。今回は中国語の数字単位に使われる「兆」について両言語における違いを解説しようと思う。
 中国語の「兆」は日本語の「兆」と同じ単位で、10の12乗と理解している方はかなり多いのではないかと思うが、実は中国語の兆は10の12乗を指す場合と10の6乗、つまり100万を指す場合とに分かれる。なぜこのような二つの意味が存在するかというと、古代中国では、万より大きい数詞を決める命数法が数種類あり、統一されていなかったからだ。近代に入り、万倍ごと、すなわち万万を億、万億を兆(10の12乗)とする「万進法」に移行した。しかし、万進法を採用したにもかかわらず、古代からの用法は既に定着しているため、混用が許されている。
 こうした混用により、現在、中国本土では、数学書などに用いられる単位は万進法で、兆は日本と同じ10の12乗。一方で、発電能力やデータ量などに限定した場合、兆は100万、すなわち「メガ」となる。例えば、中国語のニュースで発電能力が1.5兆瓦(ワット)と書き表されても、日本語に訳すと、1.5兆ワットにはならず、1.5メガワットとなるのだ。256メガバイトを中国語に訳すと、「256兆字節」となる。兆は兆だが、兆ではないという少しややこしい話になる。中国語における「兆」の使い方を十分理解せずに、翻訳してしまうと、とんでもない誤報になる恐れがある。
 ちなみに、中国本土と違い、香港と台湾における兆の使い方は、全て万進法によるもの。香港や台湾発のニュースを読む時、日本人は特に値を気にして読む必要がないと思われる。
(海外速報部・吉川文絢 : 2012年4月19日 時事通信 「時事速報」(アジア))

 ◇兆(zhao)ジャオ ◇手紙(shou zhi)シュオ ジー
 ◇大丈夫(da zhang fu)ダー ジャン フー
 ◇愛人(ai ren)アイ レン
 ◇瓦(wa)ワー ◇字節(zi jie)ヅィ ジェイ
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2012年6月
 黒色6月
 中国の大学受験生は6月を「黒色6月」(暗黒の6月)と呼んでいるのをご存じでしょうか? これは、毎年6月初めに「全国高考」(全国統一大学入学試験)が行われるからだ。「官二代」(役人二世)や「富二代」(金持ち二世)などのような権力と財力を持つ階級でない限り、上層社会へ上り詰めるには、有名大学に入り、優良企業に就職することが絶対条件。大学受験生にとって「高考」は今後の人生を左右する重要な試験であることは言うまでもない。さらに、一人っ子政策のため、家族の期待が子ども1人に集中し、想像を絶するプレッシャーが受験生にのしかかる。6月が「黒色6月」呼ばわりされてしまうのも仕方ないかもしれない。
 重圧から解放され、試験が終了した瞬間から羽目を外す生徒は少なくない。高考最終日の夜に、繁華街で受験生と思われる若者たちがお酒を飲んでワイワイ騒いだり(未成年者の飲酒禁止に関する法律が中国にないため)、カラオケボックスで夜通しで熱唱したりして、高校3年間のたまりにたまったストレスを発散させている。今年の高考は6月7〜9日の3日間に行われた。最終日は土曜日だったということもあり、「どこのカラオケボックスに行っても『爆満』(超満員)」と不満を漏らす中国在住の友人に、筆者は「ルール違反では」と一蹴した。高考最終日に、娯楽施設の混雑が予想されることは中国人にとっては常識。こうした娯楽施設に出かけず、受験生に楽しみを譲ってあげるのは社会人としての礼儀と言っても過言ではないからだ。
  一方で、試験で力をうまく発揮できず、将来を悲観して自殺する生徒は後を絶たず、この時期のお決まりニュースになってしまう悲しい現実もある。試験日より1カ月前から成績公表の7月まで、試験会場のカンニング対策から受験生の心理カウンセリングまで高考に関連するニュースがメディアをにぎわせ、夏の「風物詩」と化している。中国の大学受験生の重圧を代弁しているようで、社会全体に教育とは何かを考えさせる時期でもある。毎年、試験合格を目指す「応試教育」から生徒のさまざまな素質や人間性を育てる「素質教育」に切り替えようと問題提起されるが、いっこうに変わる気配がない。黒色6月は当分の間続きそうだ。(海外速報部・吉川文絢 : 2012年6月21日 時事通信 「時事速報」(アジア)より)
 
 ◇黒色6月(hei se liu yue)ヘイ スー リュー イュエ
 ◇全国高考(quan guo gao kao)チュアン グォー ガウ カウ
 ◇爆満(bao man)バオー マン
 ◇応試教育(ying shi jiao yu)イン シー ジャオ ユー
 ◇素質教育(su zhi jiao yu)スゥ ジー ジャオ ユー
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2012年5月
 自来水って安全なの?
 このほど、「中国の自来水(水道水)の水質合格率はたったの50%」という同国メディアの報道に、国民の多くは不安を抱き、落胆している。日本の国土交通省に相当する中国住房和城郷建設部(略称・住建部、住宅都市農村建設省)が2009年に、全国都市部の水道水の水質を調査したが、今年になってもその結果を公表しなかった。約50%の低い合格率が背景にあったのではないかと専門家らが指摘する。
 調査結果が封印された09年の水質全面調査は、ここ十数年来最大規模のものと言われており、対象となった県級(行政区分)以上の自来水廠(浄水場)が4000カ所以上に上った。住建部で水質を測定・監視する「都市供水水質監測中心(センター)」のシニアエンジニアはメディアの取材に対し、「浄水場4000カ所以上を調査したところ、1000カ所以上の水質が不合格だった」と語った。これについて、専門家らは1000カ所以上はあくまでも大まかな数字で、全体をぼかしてみせるためのものだと指摘する。この指摘に対し、同エンジニアは肯定も否定もしなかったという。
 水質問題の報道を受け、同センターの責任者は「08および09年の都市部浄水場の水質合格率は58.2%だったが、11年のサンプリング調査で合格率が83%に上昇した」と説明し、国民の不安を払拭(ふっしょく)しようとした。しかし、09年の合格率を明らかにしたものの、不合格の浄水場や汚染度合いなどの詳細は一切公表されなかった。その上、11年の合格率83%という数字も全面調査ではなく、サンプリング調査の結果で、実態を反映していないのだ。
 中国の生活飲用水衛生基準が今年7月1日より全面刷新される。新基準は、▽現行基準に比べて検査項目が71項目増える▽都市部と農村部は同じ基準を使用▽欧州連合(EU)などの先進国基準を参考にした−などと中国衛生当局が示す。これにより、水質の向上が期待できると思いきや、基準刷新を目前に、浄水技術や機材更新などで向上を図ろうとする浄水場は全国で少なく、新基準を満たせるかどうかは疑問。さらに、新基準には実質的な懲罰措置が伴われず、有名無実化するのが目に見える。庶民の間で「これは政府の水道料金の値上げの布石にしかすぎない」と反応が冷ややかだ。
(海外速報部・吉川文絢 : 2012年5月24日 時事通信 「時事速報」(アジア)より)
 
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